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何世紀にもわたる忌まわしい黒人奴隷時代の間、多くの民が故郷アフリカの地からキューバに連れ出された。彼らは、異なる発展段階の多様な文化要素を持ち込み、それらはスペイン文化やまた別のより複雑に混ざり合った文化と遭遇し文化的衝突が生じた。その結果より機能的で優れた要素が残りキューバ音楽の長い歴史においても異文化の融合が生まれ、その独自性を持った新たな文化的産物は変化し続けながら今日に至る。キューバに元来あった土着の文化はかなり原始的で未発達であったため、わずか五百年ばかり前まで続いた征服と占領の歴史の中での融合のプロセスにはあまり影響を与えることがなかった。
何世代も経った今日もなお残存している多様なアフリカ文化が混じり合った中からひとつの要素だけが分離されるということはありえない。宗教儀式の音楽においてはほとんど変わることなく、かつて遂げた異文化の融合というものを信者や専門家を通して聞くことが出来る。
こうして他のグループと異なるより敬虔な儀式や唄を用いるルクミ・クルサードを信仰する者は、ルクミまたはサンテーロと呼ばれ、いずれもキューバで生まれたものでカトリック・ルクミグループとも呼ばれる。これらのサンテーロは、それぞれの儀式や唄の違いによってマタンサスかハバナか、または他の土地の出身かが分かる。多くの場合において、混和はその一族一門の中で生まれ、アバクア(男性のみの結社で、カラバル<カラバリ>などナイジェリア南部のエグポ<エグボ>(秘密結社)に由来すると言われる。)の誓いをたてた男性がいたり、パレーロ(バントゥー由来の儀式を行う者で、主だったカトリックの要素をミックスしている。)であったり、聖者(オチャやサンテリアのしきたりの教導者と呼ばれる者で、カトリックの要素を融合させている。)であったり様々である。この様にカラバリ、バントゥー、ヨルバの文化は入り混じり、それぞれアバクア、コンゴ、ルクミと呼ばれるグループに見ることが出来る。
現在では、アフリカの言語を記憶している者はごくわずかで、唄やパルラ(短いスピーチ:仏語)や礼拝で、言語の意味を理解しないまま象徴的に使われており、時にはスペイン語などに置き換えられている。
アフリカ由来の楽器の使われ方は多岐にわたり、宗教的なものから世俗的なものまで境がない。コンゴ由来のタンボール(ンゴマ)・アバリラド(樽型の太鼓)は、トゥンバドーラやコンガという名称でルンバやコンパルサで使われ、同時にコンゴのリズムと結びつく事もある。またルンバやサンテリアにおいては、小さなザンザやムビラがマリンブラという名称になり、やや形や大きさを変えて宗教音楽からソンなどのポピュラーダンスにいたるまで使われている。
異文化の融合過程や儀式、唄、ダンス、楽器の絶え間ない進化はそれぞれの環境に取り込まれ、我々が集録してきた古い唄やパルラや礼拝や儀式の唄などにその複合的な音楽的全景を見ることができるだろう。このCDを編集するにあたり、国内の様々な地域の音源を集めた。いくつかの収録曲は、演奏者をスタジオに呼んで収録したものもある。ルクミ・クルサードの儀式での唄は、サンチャゴ・デ・クーバ州のサン・ルイスで唄われているのだが、ここではヨルバの儀式とコルドンと呼ばれる精霊崇拝の要素が混じりあっている。ビリャ・クララ州からは、チャンゴーの祈りと唄、そしてモユバ(祈祷:ヨルバ語)を集めた。同じ機会に録った老齢の伝達者によるコンゴ・レアルの労働歌には砂糖キビ刈りの唄があり、この唄からは神のパワーを誇示しているのを主なテーマとして聴くことが出来る。
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